美術館「冬の時代」と言われて久しいが、現実には新しい美術館が次々とオープンし、老舗館のリニュアールも目立つ。鑑賞する立場からは、それだけ多様な展覧会を目にすることが出来、喜ばしいことだ。令和最初の新年初めての寄稿は、竹と陶磁をモチーフとした「工芸の美」2展を取り上げる。世界屈指として知られる「竹工芸名品展:ニューヨークのアビー・コレクション-メトロポリタン美術館所蔵」は、大阪市立東洋陶磁美術館で4月12日まで開催されている。一方、京都国立近代美術館では、イタリア現代陶芸を代表する作家である「記憶と空間の造形 イタリア現代陶芸の巨匠 ニーノ・カルーソ」が2月16日まで開催中だ。いずれも、日ごろ鑑賞できない、とっておきの企画展だ。絵画とは異なる「工芸の美」の凄さは、会場に足を運んで実感してほしい。

大阪市立東洋陶磁美術館の「竹工芸名品展:ニューヨークのアビー・コレクション-メトロポリタン美術館所蔵」
自由な造形美と多様な表現、竹工芸の魅力

《GATE》の横に立つ四代田辺竹雲斎

《GATE》の横に立つ四代田辺竹雲斎

大阪市立東洋陶磁美術館に入るなり、ロビーに設置された巨大オブジェに度肝を抜かれる思いした。吹き抜けの空間を活かした竹のインスタレーションだ。大きすぎてカメラに収まらない。竹工芸家の四代田辺竹雲斎が、大阪会場のため新たに制作した作品だ。竹の工芸品といえば、竹ヒゴを編み込んだ細工物の日用品や農具、茶道具などの工芸品、竹とんぼや水鉄砲といった玩具などを想像しがちだが、この展覧会に出品された作品を一見しただけで、その芸術性に感嘆することだろう。

 

近年、日本の竹工芸はその自由な造形美と多様な表現が、現代アートとして捉え直されて国際的に高く評価されている。とりわけアメリカのダイアン&アーサー・アビー夫妻が収集した竹工芸は世界屈指のコレクションとして知られている。その「アビー・コレクション」を日本で初めて公開する今回の展覧会では、近現代の竹工芸品75件が出品されている。

 

2017年から翌年にかけてニューヨークのメトロポリタン美術館において開催された “Japanese Bamboo Art: The Abbey Collection”(「日本の竹工芸:アビー・コレクション」展)は、アメリカの鑑賞者を魅了した。その展覧会を再構成した国際巡回展で、大分県立美術館・東京国立近代美術館工芸館に続き、大阪が最終会場となる。

 

まず冒頭に触れた四代田辺竹雲斎は、1973年に三代竹雲斎の次男として堺市で生まれる。大阪市立工芸高校美術科を卒業後、 東京藝術大学美術学部彫刻科に進学する。幼少から竹に触れ、自然と竹を志すようになる。「伝統とは挑戦なり」という代々受け継がれてきた教えにより、ダイナミックな作品づくりに挑み、2011年から竹ヒゴを編んで制作するインスタレーション作品を世界各地で発表してきた。

 

内覧会で四代竹雲斎に聞いた。今回の大作《GATE》は、スタッフ7人と約2週間かけ制作したという。30センチから2メートルの竹ヒゴ1万本を使って仕上げた。展示が終われば、バラして竹ヒゴに戻る。「竹の再利用は再生であり、循環する自然もテーマ。過去からの伝統を未来につないでゆくコンセプトです」と語った。

 

大阪市立東洋陶磁美術館ロビーに設置された巨大オブジェ《GATE》   ©T. MINAMOTO

大阪市立東洋陶磁美術館ロビーに設置された巨大オブジェ《GATE》
©T. MINAMOTO

 

この展覧会の最大の特徴が、アビー・コレクションと開催美術館の所蔵品をコラボレーションした展示方法で、大阪市立東洋陶磁美術館の陶芸コレクションと並べて紹介されている。素材の違いとともに、竹工芸の多様な魅力を引き出す試みだ。初代田辺竹雲斎の精緻な《魚耳付花籃》(1922年)は、魚形の耳がつけられた古代の青銅器の写しである。大阪市立東洋陶磁美術館所蔵の《茶葉末釉双耳方形瓶》(1736-1795年)と比べて、制作された時代や素材は異なるが、器形が類似している。

 

左)03 初代田辺竹雲斎《魚耳付花籃》(1922年) The Abbey Collection, “Promised Gift of Diane and Arthur Abbey to The Metropolitan Museum of Art.” Image © The Metropolitan Museum of Art. 右)《茶葉末釉双耳方形瓶》(1736-1795年、大阪市立東洋陶磁美術館蔵) The Abbey Collection, “Promised Gift of Diane and Arthur Abbey to The Metropolitan Museum of Art.” Images © The Metropolitan Museum of Art.

左)初代田辺竹雲斎《魚耳付花籃》(1922年) The Abbey Collection, “Promised Gift of Diane and Arthur Abbey to The Metropolitan Museum of Art.” Image © The Metropolitan Museum of Art.
右)《茶葉末釉双耳方形瓶》(1736-1795年、大阪市立東洋陶磁美術館蔵)

 

このほかの主な出品作品の画像を掲載する。初代早川尚古斎の《山高帽》(1880-1890年代頃)は、西洋風の山高帽を、籐を用いて編んだユニークな作品だ。明治時代の歌舞伎役者・九代目市川團十郎(1838-1903)が好んだことでも知られている。

 

初代早川尚古斎《山高帽》(1880-1890年代頃) The Abbey Collection, “Promised Gift of Diane and Arthur Abbey to The Metropolitan Museum of Art.” Images © The Metropolitan Museum of Art.

初代早川尚古斎《山高帽》(1880-1890年代頃) The Abbey Collection, “Promised Gift of Diane and Arthur Abbey to The Metropolitan Museum of Art.” Image © The Metropolitan Museum of Art.

 

展覧会チラシの表紙を飾る長倉健一の《花入 女(ひと)》(2018年)は、上部にわずかのぞく竹節と、細いヒゴを編み上げた下部により、ほっそりとした女性の姿を表している。

 

長倉健一《花入 女(ひと)》(2018) The Abbey Collection, “Promised Gift of Diane and Arthur Abbey to The Metropolitan Museum of Art.” Images © The Metropolitan Museum of Art.

長倉健一《花入 女(ひと)》(2018) The Abbey Collection, “Promised Gift of Diane and Arthur Abbey to The Metropolitan Museum of Art.” Image © The Metropolitan Museum of Art.

 

さらに加藤藤昇斎の《花車形花籃》(1920-1930年代頃)はじめ、三世早川尚古斎の《提梁花籃 舞蛙》(1918年)、二代田辺竹雲斎の《牡丹花籃 富貴》(1940-50年頃)、三代田辺竹雲斎の《未来への歓喜》(2008年)、田辺陽太の《子供たちにささげる土》(1975年)、阪口宗雲斎の《果物籃 水月》(1929年)、さらに飯塚琅玕斎の《掛花生》(1945年)、飯塚小玕斎の《白錆花籃 雲龍》(1990年)など逸品ぞろいだ。

 

加藤藤昇斎《花車形花籃》(1920-193年代頃) The Abbey Collection, “Promised Gift of Diane and Arthur Abbey to The Metropolitan Museum of Art.” Images © The Metropolitan Museum of Art.

加藤藤昇斎《花車形花籃》(1920-193年代頃) The Abbey Collection, “Promised Gift of Diane and Arthur Abbey to The Metropolitan Museum of Art.” Image © The Metropolitan Museum of Art.

左)三世早川尚古斎《提梁花籃 舞蛙》(1918年) 右)二代田辺竹雲斎《牡丹花籃 富貴》(1940-50年頃) The Abbey Collection, “Promised Gift of Diane and Arthur Abbey to The Metropolitan Museum of Art.”

左)三世早川尚古斎《提梁花籃 舞蛙》(1918年)
右)二代田辺竹雲斎《牡丹花籃 富貴》(1940-50年頃)
The Abbey Collection, “Promised Gift of Diane and Arthur Abbey to The Metropolitan Museum of Art.” Image © The Metropolitan Museum of Art.

三代田辺竹雲斎《未来への歓喜》(2008年) The Abbey Collection, “Promised Gift of Diane and Arthur Abbey to The Metropolitan Museum of Art.” Images © The Metropolitan Museum of Art.

三代田辺竹雲斎《未来への歓喜》(2008年) The Abbey Collection, “Promised Gift of Diane and Arthur Abbey to The Metropolitan Museum of Art.” Image © The Metropolitan Museum of Art.

左)田辺陽太《子供たちにささげる土》(1975年) 右)阪口宗雲斎《果物籃 水月》(1929年) The Abbey Collection, “Promised Gift of Diane and Arthur Abbey to The Metropolitan Museum of Art.” Images © The Metropolitan Museum of Art.

左)田辺陽太《子供たちにささげる土》(1975年)
右)阪口宗雲斎《果物籃 水月》(1929年)
The Abbey Collection, “Promised Gift of Diane and Arthur Abbey to The Metropolitan Museum of Art.” Image © The Metropolitan Museum of Art.

左)飯塚琅玕斎《掛花生》(1945年) 右)飯塚小玕斎《白錆花籃 雲龍》(1990年) The Abbey Collection, “Promised Gift of Diane and Arthur Abbey to The Metropolitan Museum of Art.” Images © The Metropolitan Museum of Art.

左)飯塚琅玕斎《掛花生》(1945年)
右)飯塚小玕斎《白錆花籃 雲龍》(1990年)
The Abbey Collection, “Promised Gift of Diane and Arthur Abbey to The Metropolitan Museum of Art.” Image © The Metropolitan Museum of Art.

大阪市立東洋陶磁美術館担当の宮川智美学芸員は「一本の線から、自由自在な造形が生まれてくるという点では、竹という素材は極めて現代的な表現ができる素材なのではないでしょうか。本展でご紹介するアビー・コレクションでは、伝統的な作家の系譜による作品から、現代的な造形作品まで、日本国内ではもはや見ることができない規模で優れた竹工芸の作品をご覧いただくことができます」とのメッセージだ。

 

特集展「受贈記念 木村盛康・天目のきらめき」の展示

特集展「受贈記念 木村盛康・天目のきらめき」の展示

なお会場では、特集展として「受贈記念 木村盛康・天目のきらめき」が併催されている。盛康氏(1935~)は京都の陶芸一家に生まれ、天目の陶芸家として知られている。そのきっかけは高校の陶芸科を卒業後して間もない頃に出会った大阪市立東洋陶磁美術館所蔵の国宝《油滴天目茶碗》であったという。このたび京都在住の個人(匿名)より木村盛康氏の天目作品25点を寄贈いただいたのを記念しての展覧会で、こちらも見ごたえたっぷりだ。

京都国立近代美術館の「記憶と空間の造形 イタリア現代陶芸の巨匠 ニーノ・カルーソ」
新境地拓いた変遷、没後初の回顧展に約90点

「竹工芸展」同様、京都国立近代美術館一階の広いエントランスのロビーに大きな造形の作品が設置されている。おおよそ陶芸展のイメージを超えた造形作品の数々は、古代の遺跡の建造物を思わせる。古代と現代を結ぶ空間の構築へ挑んだイタリア現代陶芸を代表する作家であるニーノ・カルーソが制作した。今回の本格的な展覧会は日本で初めてであり、没後世界初となる本格的な回顧展で、約90点の代表作をはじめ数々のデザインワークやスケッチなどの資料を通じて、陶芸表現の新境地を拓いたカルーソの変遷と業績をたどっている。京都会場後、岐阜県現代陶芸美術館(2月27日~4月12日)に巡回する。

 

京都国立近代美術館一階の広いロビーに設置された大きな造形の作品

京都国立近代美術館一階の広いロビーに設置された大きな造形の作品

 

ニーノ・カルーソ(1928~2017)は、1950年代中頃に陶芸家としての活動をスタート。60年代中頃までは紐づくりで成形し、人物や生物を描いた絵付けやざらついた質感の釉薬を特徴とするシリーズ「アルカイック」を制作する。

 

また同時期、鉄による彫刻作品を意欲的に手がけ、64年にはマルケ州ペザロに自身初の巨大な野外モニュメント《抵抗の碑》を発表した。こうした実践活動から、カルーソが陶磁を中心としながらも、鉄やセメントなど必要な素材を必要に応じて使いこなしていたことがうかがえる。

 

64年から翌年には、発泡スチロールを電熱線で複数のパーツにカットしたものを原型として鋳込む技法で取り組む。カルーソはこうした革新的な技法をさらに応用し、雄型・雌型を上下左右に組み合わせ、それらの造形によって複雑な空間を構成する。

 

カルーソは地中海地方の神話や風土、建築物に着想を得た彫刻・壁面作品を制作したほか、多くの公共建築を彩る。こうしてカルーソは神話性、象徴性を制作におけるテーマの一つとし、初期はそれらを自己の故郷の記憶と結びつけた装飾的な器物を制作していたが、次第に古代ローマの遺跡等を思わせる壁面や柱、門などの形態制作を通じて、古代と現代を結ぶ空間の構築へと向かった。こうしたカルーソの表現世界は、世界で高い評価を得ている。

 

日本とカルーソの関わりもあり、滋賀県立陶芸の森の野外モニュメント《風と星》(1991)のデザインを手がけたほか、岐阜県で開催される「国際陶磁器展美濃」で審査員を歴任している。イタリア現代陶芸巨匠の回顧展では、これまでにカルロ・ザウリ展(2007-08年)やグェッリーノ・トラモンティ展(2011-12年)に続く。

 

展示構成とそれぞれの主な出品作品を紹介する。初期の「アルカイックシリーズ」では、人体を思わせるフォルムと装飾を結合させた《抱擁》や《疑念》(いずれも1957年)などが並ぶ。工業用の鉄板を譲り受けたことから始まった「鉄の彫刻」では、《鷺》(1958年)や《進化2》(1962年)が出品されている。

 

左)ニーノ・カルーソ《抱擁》(1957年) 右)ニーノ・カルーソ《疑念》(1957年)

左)ニーノ・カルーソ《抱擁》(1957年)      右)ニーノ・カルーソ《疑念》(1957年)

左)ニーノ・カルーソ《鷺》(1958年) 右)ニーノ・カルーソ《進化2》(1962年)

左)ニーノ・カルーソ《鷺》(1958年)   右)ニーノ・カルーソ《進化2》(1962年)

 

「デザイン」の業績に続き、「モジュラー彫刻」は、発砲スチロールを原型にした作品を生み出す。ここでは多くの作品を見ることができる。《陶彫》(1968年頃、京都国立近代美術館蔵)をはじめ、《把手付壺》(1983-84年)、《エルトリア人》(1985年)、《アーキスカルプチャー(セジェスタ)》(1988-91年)、《エルマー両性具有》(1993年)などが展示されている。

 

ニーノ・カルーソ《陶彫》(1968年頃、京都国立近代美術館蔵)

ニーノ・カルーソ《陶彫》(1968年頃、京都国立近代美術館蔵)

左)ニーノ・カルーソ、《把手付壺》(1983-84年) 右)ニーノ・カルーソ《エルトリア人》(1985年)

左)ニーノ・カルーソ、《把手付壺》(1983-84年) 右)ニーノ・カルーソ《エルトリア人》(1985年)

左)ニーノ・カルーソ《アーキスカルプチャー(セジェスタ)》(1988-91年) 右)ニーノ・カルーソ《エルマー両性具有》(1993年)

左)ニーノ・カルーソ《アーキスカルプチャー(セジェスタ)》(1988-91年)
右)ニーノ・カルーソ《エルマー両性具有》(1993年)

 

最後の「夢の記憶」は自身が見た「夢」をきっかけに制作したモニュメンタルな作品が出品されている。《夢の館》(1999年)や《シチリアの記憶》(1999-2004年)などだ。

 

ニーノ・カルーソ《夢の館》(1999年)

ニーノ・カルーソ《夢の館》(1999年)

ニーノ・カルーソ《シチリアの記憶》(1999-2004)

ニーノ・カルーソ《シチリアの記憶》(1999-2004)

 

この展覧会を担当した京都国立近代美術館の大長智広研究員は図録に「ニーノ・カルーソと日本」と題して、次のような文章で結んでいる。

 

カルーソは、1982年の来日をきっかけに日本の陶芸界からはデザイン的、産業的な視点でその仕事が捉えられるようになったと思われる。しかし、カルーソの制作行為をみていくと、この捉え方は一面的でしかなく、カルーソの仕事の全体を包括するものではない。だからこそ、没後初めてとなるカルーソの回顧展である本展が、カルーソという一人の創作者とあらためて対峙する機会になることを願うのである。