花の都にとどまらない。ファッションの、グルメの、革命の……、など様々な形容で多くの人の感興をそそるパリ。前回紹介したムンクや藤田嗣治ら画家たちの聖地であり、一にも二にも芸術の都なのだ。この四半世紀アートに関わってきた私にとっては、朝日新聞社時代にはバルビゾン展やロダン展を担当し、定年後も佐伯祐三ゆかりの地などを訪ね歩いた思い出がよぎる。とりわけ世界屈指のルーヴル美術館の所蔵品の質量のすばらしさには圧倒された。まさに美の殿堂の魅力を伝える「ルーヴル美術館展 肖像芸術―人は人をどう表現してきたか」が、大阪市立美術館で新年1月14日まで開催中だ。また「ルーヴル美術館の銅版画展」が、三重のパラミタミュージアムで1月18日から2月19日まで開かれるので、併せて取り上げる。

大阪市立美術館「ルーヴル美術館展 肖像芸術―人は人をどう表現してきたか」
《美しきナーニ》など約110点一堂に

ルーヴル美術館はフランスの国立美術館で、世界有数の歴史と、「ミロのヴィーナス」や「モナ・リザ」など38万点以上のコレクションを誇る。主要入口はあの有名なガラスのピラミッド。美術館へ入る地下広場には三分の一の逆さピラミッドが下がり、毎年800万人を超える入場者が訪れている。

 

所蔵作品展は日本で何度も開催され、私の書棚にも「200年展」(1993年)をはじめ、「19世紀フランス絵画」(2005年)、「フランス宮廷の美」(2008年、「美の宮殿の子どもたち」(2009年)、「地中海 四千年のものがたり」(2013年)。「日常を描く―風俗画にみるヨーロッパ絵画の真髄」(2015年)などの図録が並ぶ。

 

今回のテーマは「肖像芸術」。古代から人の表情や姿を絵画や彫刻で表現されていて、肖像は洋の東西を問わず最も長い歴史を持つ芸術ジャンルの一つだ。ルーヴル美術館の全8部門から時代・地域を超え選りすぐられた約110点の作品を通して、肖像の社会的役割や表現上の様々な特質を浮き彫りにする。27年ぶりに来日したルーヴルが誇る肖像画の至宝《女性の肖像》・通称《美しきナーニ》から、古代エジプトの棺を飾ったマスク、ローマ皇帝やナポレオンなどの君主像、そして華麗な女性や愛らしい子どもたちまで、数々の肖像の名品が一堂に会している。

 

展覧会は、プロローグとエピローグを含む5つのセクションで構成されている。章ごとの内容と主な展示品を紹介する。プロローグ「マスク―肖像の起源」では、古代エジプトの理想化・様式化された棺用マスクと、後世の写実性・肖似性を求めた肖像を比較して展示されている。

 

例えば《棺に由来するマスク》(新王国時代、第18王朝、前1391-前1353年、エジプト出土)は、大きな目と弓なりの眉が青いガラスで優美に理想化された定型表現に従っている。一方、《女性の肖像》(2世紀後半、エジプト・テーベ?出土)は、大きな瞳が印象的な女性の顔立ちで、真珠のイヤリングや金の首飾りも写実表現だ。

 

 

《棺に由来するマスク》(新王国時代、第18王朝、前1391-前1353年、エジプト出土)Photo ©RMN-Grand Palais (musée du Louvre) / Franck Raux /distributed by AMF-DNPartcom

《棺に由来するマスク》(新王国時代、第18王朝、前1391-前1353年、エジプト出土)Photo ©RMN-Grand Palais (musée du Louvre) / Franck Raux /distributed by AMF-DNPartcom

《女性の肖像》(2世紀後半、エジプト・テーベ?出土)Photo © Musée du Louvre, Dist. RMN-Grand Palais / Georges Poncet /distributed by AMF-DNPartcom

《女性の肖像》(2世紀後半、エジプト・テーベ?出土)Photo © Musée du Louvre, Dist. RMN-Grand Palais / Georges Poncet /distributed by AMF-DNPartcom

 

第1章「記憶のための肖像」では、人の存在を「記憶」するという肖像の最も古い役割をテーマに、神々に捧げるため、子孫に残すために作られた古代から19世紀までの肖像作品が並ぶ。《ボスコレアーレの至宝 エンブレマ型杯》(35-40年頃、イタリア・ボスコレアーレ出土)は精巧な銀器で、《女性の頭部》(150-250年 シリア・パルミラ出土)は墓碑用の胸像だ。

 

《ボスコレアーレの至宝 エンブレマ型杯》(35-40年頃、イタリア・ボスコレアーレ出土)Photo © RMN-Grand Palais (musée du Louvre) /Hervé Lewandowski /distributed by AMF-DNPartcom

《ボスコレアーレの至宝 エンブレマ型杯》(35-40年頃、イタリア・ボスコレアーレ出土)Photo © RMN-Grand Palais (musée du Louvre) /Hervé Lewandowski /distributed by AMF-DNPartcom

《女性の頭部》(150-250年、シリア・パルミラ出土)Photo © RMN-Grand Palais (musée du Louvre) /Hervé Lewandowski /distributed by AMF-DNPartcom

《女性の頭部》(150-250年、シリア・パルミラ出土)Photo © RMN-Grand Palais (musée du Louvre) /Hervé Lewandowski /distributed by AMF-DNPartcom

 

 

この章で注目したいのが、ジャック=ルイ・ダヴィッドと工房による油彩画《マラーの死》(1794頃)だ。フランス革命の重要人物であるジャン=ポール・マラーが刺殺された翌日に、ダヴィッドが依頼を受けて制作した。評判を呼び数点のレプリカが制作されることとなり、本作はその一点だ。昨秋、名古屋市美術館の「ランス美術館展」でも別のレプリカが出品されていた。オリジナル作品はベルギー王立美術館が所蔵している。

 

ジャック=ルイ・ダヴィッドと工房《マラーの死》(1794頃)Photo © RMN-Grand Palais (musée du Louvre) /Martine Beck-Coppola /distributed by AMF-DNPartcom

ジャック=ルイ・ダヴィッドと工房《マラーの死》(1794頃)Photo © RMN-Grand Palais (musée du Louvre) /Martine Beck-Coppola /distributed by AMF-DNPartcom

 

続く第2章は「権力の顔」。肖像芸術が担ってきたもう一つの役割である「権力の顕示」にフォーカス。古代エジプトのアメンヘテプ3世、マケドニアのアレクサンドロス大王、アウグストゥス帝やカラカラ帝などのローマ皇帝、ルイ14世をはじめとする歴代のフランス国王、そしてフランス王妃マリー=アントワネットなど、歴史を彩った時の権力者たちの肖像が居並ぶ。

 

古代オリエントの代表的な肖像の《王の頭部》・通称《ハンムラビ王の頭部》(ハビロン第1王朝、前1840年頃)や、《アレクサンドロス大王の肖像》・通称《アザラのヘルメス柱》(2世紀前半、イタリア・ティヴィリのヴィラで1779年に発見)、ジャン=オーギュスト=ドミニク・アングルの《フランス王太子、オルレアン公フェルディナン=フィリップ・ド・ブルボン=オルレアンの肖像》、セーヴル磁器製作所(ルイ=シモン・ボワゾに基づく)《フランス王妃マリー=アントワネットの胸像》(1782年)などが出品されている。

 

左)《王の頭部》・通称《ハンムラビ王の頭部》(ハビロン第1王朝、前1840年頃)   Photo © Musée du Louvre, Dist. RMN-Grand Palais / Raphaël Chipault /distributed by AMF-DNPartcom 右)《アレクサンドロス大王の肖像》・通称《アザラのヘルメス柱》(2世紀前半、イタリア・ティヴィリのヴィラで1779年に発見)Photo © Musée du Louvre, Dist. RMN-Grand Palais / Daniel Lebée / Carine Déambrosis /distributed by AMF-NPartcom

左)《王の頭部》・通称《ハンムラビ王の頭部》(ハビロン第1王朝、前1840年頃)Photo © Musée du Louvre, Dist. RMN-Grand Palais / Raphaël Chipault /distributed by AMF-DNPartcom
右)《アレクサンドロス大王の肖像》・通称《アザラのヘルメス柱》(2世紀前半、イタリア・ティヴィリのヴィラで1779年に発見)Photo © Musée du Louvre, Dist. RMN-Grand Palais / Daniel Lebée / Carine Déambrosis /distributed by AMF-NPartcom

左)ジャン=オーギュスト=ドミニク・アングル《フランス王太子、オルレアン公フェルディナン=フィリップ・ド・ブルボン=オルレアンの肖像》Photo © Musée du Louvre, Dist. RMN-Grand Palais / Angèle Dequier /distributed 右)セーヴル磁器製作所(ルイ=シモン・ボワゾに基づく)《フランス王妃マリー=アントワネットの胸像》(1782年)Photo © Musée du Louvre, Dist. RMN-Grand Palais / Peter Harholdt /distributed by AMF-DNPartcom

左)ジャン=オーギュスト=ドミニク・アングル《フランス王太子、オルレアン公フェルディナン=フィリップ・ド・ブルボン=オルレアンの肖像》Photo © Musée du Louvre, Dist. RMN-Grand Palais / Angèle Dequier /distributed
右)セーヴル磁器製作所(ルイ=シモン・ボワゾに基づく)《フランス王妃マリー=アントワネットの胸像》(1782年)Photo © Musée du Louvre, Dist. RMN-Grand Palais / Peter Harholdt /distributed by AMF-DNPartcom

 

とくに目を引くのは、将軍から皇帝へと昇りつめ最高権力を手にしながらも、追放先の孤島で孤独な最期を迎えたナポレオンの肖像だ。アントワーヌ=ジャン・グロの傑作《アルコレ橋のボナパルト(1796年11月17日)》(1796年)は、躍動感あふれる勇姿を描き、クロード・ラメの大理石の彫像《戴冠式の正装のナポレオン1世》(1813年)は宮殿の皇帝の間に飾るために制作された。そして最期は追放先の孤島セントヘレナで病に伏し息を引き取るが、フランチェスコ・アントンマルキの《ナポレオン1世のデスマスク》(1833年)まで展示され、激動の人生をたどっている。

 

アントワーヌ=ジャン・グロ《アルコレ橋のボナパルト(1796年11月17日)》(1796年) Photo © RMN-Grand Palais (musée du Louvre) / Hervé Lewandowski /distributed by AMF-DNPartcom

アントワーヌ=ジャン・グロ《アルコレ橋のボナパルト(1796年11月17日)》(1796年) Photo © RMN-Grand Palais (musée du Louvre) / Hervé Lewandowski /distributed by AMF-DNPartcom

左)クロード・ラメ《戴冠式の正装のナポレオン1世》(1813年)Photo © RMN-Grand Palais (musée du Louvre) / Michel Urtado /distributed by AMF-DNPartcom 右)フランチェスコ・アントンマルキ《ナポレオン1世のデスマスク》(1833年)Photo © Musée du Louvre, Dist. RMN-Grand Palais / Pierre Philibert /distributed by AMF-DNPartcom

左)クロード・ラメ《戴冠式の正装のナポレオン1世》(1813年)Photo © RMN-Grand Palais (musée du Louvre) / Michel Urtado /distributed by AMF-DNPartcom
右)フランチェスコ・アントンマルキ《ナポレオン1世のデスマスク》(1833年)Photo © Musée du Louvre, Dist. RMN-Grand Palais / Pierre Philibert /distributed by AMF-DNPartcom

 

さらに第3章「コードとモード」では、王侯貴族や高位聖職者を対象とした肖像画が商人や銀行家などへ裾野が広がったルネサンス以降の作品を展示。衣服や装身具といった古代から伝わってきた表現方法(コード)は、モデルの社会的地位から、モデルの個性や時代の流行(モード)も取り入れられ、その多様性を見ることができる。

 

最大の見どころ作品の《美しきナーニ》(1560年頃)は、ヴェネツィアの巨匠ヴェロネーゼ(本名バオロ・カリアーリ)の傑作だ。貴族階級の美しい女性の表情以上に豪奢な衣装が際立つ。金のベルトや肩飾りの豪華さ、ドレスのうえに羽織った薄いヴェールの繊細な質感描写も鮮やかに表現されている。ルーヴル美術館では通常、ガラスケースに囲われているそうだが、今回の展示では直接作品を鑑賞できる。

 

ヴェロネーゼ(本名バオロ・カリアーリ) 《美しきナーニ》(1560年頃)Photo © RMN-Grand Palais (musée du Louvre)

ヴェロネーゼ(本名バオロ・カリアーリ) 《美しきナーニ》(1560年頃)Photo © RMN-Grand Palais (musée du Louvre)/Michel Urtado /distributed by AMF-DNPartcom

 

もう一点、上級階級の女性美を描いたエリザベート・ルイーズ・ヴィジェ・ル・ブランの《エカチェリーナ・ヴァシリエヴナ・スカヴロンスキー伯爵夫人の肖像》(1796年)も、一際目を引く。王妃マリー=アントワネットの肖像画家として名を馳せたエリザベート=ルイーズ・ヴィジェ・ル・ブランの作品だ。東洋風のターバンと青いショールを身にまとった女性ながら、その甘い眼差しに思わず引き込まれる。

 

エリザベート・ルイーズ・ヴィジェ・ル・ブラン《エカチェリーナ・ヴァシリエヴナ・スカヴロンスキー伯爵夫人の肖像》(1796年)Photo © RMN-Grand Palais (musée du Louvre) / Michel Urtado /distributed by AMF-DNPartcom

エリザベート・ルイーズ・ヴィジェ・ル・ブラン《エカチェリーナ・ヴァシリエヴナ・スカヴロンスキー伯爵夫人の肖像》(1796年)Photo © RMN-Grand Palais (musée du Louvre) / Michel Urtado /distributed by AMF-DNPartcom

 

このコーナーでは、フランシスコ・デ・ゴヤ・イ・ルシエンテスの《第2代メンクラーナ男爵、ルイス・マリア・デ・シストゥエ・イ・マルティネスの肖像》(1791年)は、舌を噛みそうな作家と作品名だが、要はスペインの巨匠ゴヤが描いた男爵の子どもの肖像画だが、優れた技量を示している。フランツ・クサファー・メッサーシュミットの《性格表現の頭像》(1771-1783年の間)は、単なる肖像作品ではなく、精神性を投影した作品で印象深い。

 

フランシスコ・デ・ゴヤ・イ・ルシエンテス《第2代メンクラーナ男爵、ルイス・マリア・デ・・シストゥエ・イ・マルティネスの肖像》(1791年)Photo © Musée du Louvre, Dist. RMN-Grand Palais / Philippe Fuzeau /distributed by AMF-DNPartcom

フランシスコ・デ・ゴヤ・イ・ルシエンテス《第2代メンクラーナ男爵、ルイス・マリア・デ・・シストゥエ・イ・マルティネスの肖像》(1791年)Photo © Musée du Louvre, Dist. RMN-Grand Palais / Philippe Fuzeau /distributed by AMF-DNPartcom

フランツ・クサファー・メッサーシュミット《性格表現の頭像》(1771-1783年の間)Photo © Musée du Louvre, Dist. RMN-Grand Palais / Pierre Philibert /distributed by AMF-DNPartcom

フランツ・クサファー・メッサーシュミット《性格表現の頭像》(1771-1783年の間)Photo © Musée du Louvre, Dist. RMN-Grand Palais / Pierre Philibert /distributed by AMF-DNPartcom

 

さらにサンドロ・ボッティチェリと工房の《赤い縁なし帽をかぶった若い男性の肖像》(1480-1490年頃)や、レンブラント・ハルメンスゾーン・ファン・レインの《ヴィーナスとキューピッド》(1657年頃)、ディエゴ・ベラスケスの《スペイン王妃マリアナ・デ・アウストリア(1634-1696)の肖像》(1652年頃)といった巨匠らの作品も見逃せない。

 

サンドロ・ボッティチェリと工房《赤い縁なし帽をかぶった若い男性の肖像》(1480-1490年頃)Photo © RMN-Grand Palais (musée du Louvre) / Michel Urtado /distributed by AMF-DNPartcom

サンドロ・ボッティチェリと工房《赤い縁なし帽をかぶった若い男性の肖像》(1480-1490年頃)Photo © RMN-Grand Palais (musée du Louvre) / Michel Urtado /distributed by AMF-DNPartcom

ディエゴ・ベラスケス《スペイン王妃マリアナ・デ・アウストリア(1634-1696)の肖像》(1652年頃) Photo © RMN-Grand Palais (musée du Louvre) / Tony Querrec /distributed by AMF-DNPartcom

レンブラント・ハルメンスゾーン・ファン・レイン《ヴィーナスとキューピッド》1657年頃 / Photo © RMN-Grand Palais (musée du Louvre) / Tony Querrec /distributed by AMF-DNPartcom

 

展覧会を締めくくるエピローグは「アルチンボルド―肖像の遊び」。ハプスブルク家の宮廷で三代にわたって神聖ローマ皇帝に仕えたジュゼッペ・アルチンボルドの代表作である連作「四季」の《春》と《秋》(いずれも1573年)は、皇帝に献上された傑作だ。一見、奇妙な肖像だが、万物を掌握し統治する皇帝の権力を象徴するという意味合いもあるそうだ。アルチンボルドの作品はこれまでも「だまし絵」として何度か見ていて、昨年は国立西洋美術館で初の回顧展が開かれたばかりで、記憶に新しい。

 

ジュゼッペ・アルチンボルド《春》(1573年)Photo © RMN-Grand Palais (musée du Louvre) / Jean-Gilles Berizzi /distributed by AMF-DNPartcom

ジュゼッペ・アルチンボルド《春》(1573年)Photo © RMN-Grand Palais (musée du Louvre) / Jean-Gilles Berizzi /distributed by AMF-DNPartcom

 

肖像画は、風景画や静物画、神話場面画などより古い歴史を持ち、その役割を変化させながら多様性に富んだ作品を生んできたことが、数々の作品から読み解けます。ルーヴル美術館の豊かなコレクションを、しかも身近な肖像作品をテーマにした今回の展覧会の醍醐味をたっぷり楽しめる絶好の機会だ。

パラミタミュージアム「ルーヴル美術館の銅版画展」
宮殿や名画を描いた銅版画約130点

壮大なコレクションを誇るルーヴル美術館では、絵画や彫刻だけでなく、デッサンやパステル、版画などのグラフィック・アート部門の収蔵作品も10数万点とも言われている。しかしカルコグラフィー室(銅版画原版コレクション保管室)についてはあまり知られていない。カルコグラフィーとはギリシャ語で「銅板に描かれたもの」という意味だ。

 

カルコグラフィー室は、太陽王ルイ14世の治世以降、王家の権勢を国内外に知らしめるために壮麗なイベントや芸術作品を銅版画で記録したことから始まり、「王の版画原版収集室」として設立された。その後、カルコグラフィー室では現代作家による新作を加え豊かなコレクションを形成している。

 

今回の銅版画展では、このカルコグラフィー室の銅版画コレクション約1万3000点の中から、日本での特別公開のために、当時の版を使い刷られた銅版画約130点が出品される。

 

展示は、ルーヴル宮殿とヴェルサイユ宮殿の外観や内部装飾、風景から始まる。その後は時代別になっており、ルネサンス、バロック、ロココ、新古典主義、印象派…などの項目に分かれ、作品の題材も宗教・神話・歴史画・肖像画・雅宴画・建造物など多岐に及ぶ。

 

主な展示品を図録から拾う。まずルーヴル美術館の前身であるルーヴル宮殿の建設中の様子や宮殿の図面柱など建築物の細部を示した図や、様々な場所から見た風景などを伝える作品が鑑賞できる。ルイ=ピエール・バルタールの《アンジヴィリエ邸の庭から眺めたルーヴル宮の柱廊》(『パリとその建造物』「ルーヴル宮」図版2)で、当時の建物の荘厳さが窺える。柱廊の建設が決定したのは、ルイ14世がヴェルサイユ宮殿に移った後の1667年だが、未完成に終わった。ジャック・リゴーの《ルーヴル旧館正面の眺め》も出品される。

 

ルイ=ピエール・バルタール《アンジヴィリエ邸の庭から眺めたルーヴル宮の柱廊》(『パリとその建造物』「ルーヴル宮」図版2)

ルイ=ピエール・バルタール《アンジヴィリエ邸の庭から眺めたルーヴル宮の柱廊》(『パリとその建造物』「ルーヴル宮」図版2)

ジャック・リゴー《ルーヴル旧館正面の眺め》

ジャック・リゴー《ルーヴル旧館正面の眺め》

 

次いでヴェルサイユ宮殿。ルイ14世の栄華の象徴として、贅の限りを尽くした宮殿だ。不毛の地に森を造り、セーヌ川の水を引き込む大工事に、3万人の作業員をはじめ、一流の建築家や造園家、装飾家たちを集め、1661年に着工し、1710年に竣工した。イスラエル・シルヴェストルの《アルム広場の風景》や、ジョゼフ=マリー・シュヴォテの《ヴェルサイユの大階段の内観》などで往時の様子が記録されている。

 

イスラエル・シルヴィレストル《アルム広場の風景》

イスラエル・シルヴェストル《アルム広場の風景》

ジョゼフ=マリー・シュヴォテ《ヴェルサイユ大階段の内観》

ジョゼフ=マリー・シュヴォテ《ヴェルサイユの大階段の内観》

 

ルネサンス期はレオナルド・ダ・ヴィンチの《モナ・リザ》など数多くの名画が描かれた。しかし世界に唯一である美術作品を後世に伝えるため、版画は複製手段として奨励されたのだ。ラファエロ・サンツィオの《美しき女庭師》や、サンドロ・ボッティチェリの《三美神(「春」の部分)》なども展示される。

 

レオナルド・ダ・ヴィンチ《モナ・リザ》

レオナルド・ダ・ヴィンチ《モナ・リザ》

 

17世紀のバロック―フランス、フランドルでは、レンブラントやフェルメール、ルーベンス、プッサンらの名だたる巨匠を輩出した。レンブラントの《ベレー帽を被った自画像》のほか、ヨハネス・フェルメールの《レースを編む女》や、ピーテル・パウル・ルーベンスの《聖母の結婚》など見ごたえがある。

 

レンブラント・ハルメンスゾーン・ファン・レイン《ベレー帽を被った自画像》

レンブラント・ハルメンスゾーン・ファン・レイン《ベレー帽を被った自画像》

ヨハネス・フェルメール《レースを編む女》

ヨハネス・フェルメール《レースを編む女》

マリー・アントワネットの夫であるルイ16世の18世紀のロココ期、繊細優美な絵画や建築、工芸が花開く。ここではニコラ・ランクレの《連作(四季-秋)》なども。19世紀のフランス絵画では、男を魅了し、破滅・死に追いやるサロメを描いたギュスターヴ・モローの《出現》などが目を引く。20世紀に入ると写真が登場し、版画は記録から芸術へと移行する。この時期の作品では、アメデオ・モディリアーニの《イタリアの女》や、藤田嗣治の《画家の肖像》なども出品される。

 

ニコラ・ランクレ連作《四季-秋》

ニコラ・ランクレ連作《四季-秋》

ギュスターブ・モロー《出現》

ギュスターヴ・モロー《出現》

アメデオ・モディリアーニ《イタリアの女》

アメデオ・モディリアーニ《イタリアの女》

日ごろ聞きなれないボタニカルアートのコーナーもある。カメラが発明されていない時代、植物研究において版画が果たした役割が大きい。植物を対象に描いた作品は植物学的に正確であることはもちろん芸術的な美しさも備え、19世紀のフランスやイギリスで大流行した。ここではニコラ・ロベールの《リーリオナルシスシュス・ヤポーニクス、ルティロー・フローレ(ヒガンバナ)》などが並ぶ。

 

ニコラ・ロベール《リーリオナルシスシュス・ヤポーニクス、ルティロー・フローレ(ヒガンバナ)》

ニコラ・ロベール《リーリオナルシスシュス・ヤポーニクス、ルティロー・フローレ(ヒガンバナ)》

銅版画展は、絵画と異なり至近距離で鑑賞できるのもうれしい。謎を秘めた名画《モナ・リザ》など版画での複製技術や、時代によって多様に変化した版画の魅力を、肖像画展と同様に堪能してほしい。