「永遠のパリ」は絵画だけではなかった。世界を魅了したのは浮世絵だけではない。今回はフランスと日本で生まれた「工芸の美」にスポットを当てた。フランス国王ルイ15世の時代に誕生し、マリー・アントワネット、ナポレオンなど、時の権力者に愛され続けたセーヴル磁器の名品の数々を展示する「フランス宮廷の磁器 セーヴル、創造の300年」は、大阪市立東洋陶磁美術館で7月16日まで開催されている。一方、京都国立近代美術館では、絶品、日本の意匠と謳う「明治150年展 明治の日本画と工芸」が5月20日まで開催中だ。いずれも、とびきりの企画内容だ。「工芸の美」を堪能出来るこの機会に鑑賞をお勧めする。

「フランス宮廷の磁器 セーヴル、創造の300年」
時代とともに変化、創造の軌跡表す130件

国立セーヴル陶磁美術館の外観Photo(c)Adeline Czifra/ Sèvres, Cité de la céramique

国立セーヴル陶磁美術館の外観
Photo(c)Adeline Czifra/ Sèvres, Cité de la céramique

セーヴル磁器の歴史は1740年、パリ東端のヴァンセンヌに生まれた軟質磁器工房の活動が始まりとされる。当時、強大な権力を誇った国王ルイ15世の庇護を受けて、パリとヴェルサイユの間に位置するセーヴルへと移転した製作所は、王立の磁器製作所となる。お抱えの画家や彫刻家らが洗練された形や絵柄を考案し、技術者たちの卓越した妙技によって、優雅で気品に満ちた磁器が王侯貴族たちを魅了した。フランス革命を経てナポレオンが台頭すると、新古典主義の作品を製作し、19世紀半ばからの万国博覧会の時代には斬新な作品を展開し、発展の礎を築いた。

 

その後、国立セーヴル磁器製作所と国立セーヴル陶磁美術館が2010年に統合され「セーヴル陶磁都市」という新組織になった。今回の展覧会は、その「セーヴル陶磁都市」の所蔵作品によって、約300年に及ぶセーヴル磁器の創造の軌跡をご紹介する日本で初めての展覧会だ。なお国立セーヴル陶磁美術館のコレクション展が日本で開催されるのは、20年ぶりのことだ。フランス宮廷に育まれ、時代とともに変化し続けてきたセーヴルの名品約130件が展示されている。

 

展覧会はセーヴルの歴史に沿って「18世紀」「19世紀」「20世紀」「現代」の4章で構成されているが、冒頭にプロローグとして、「王のための磁器」を設け、代表的な作品25点が並ぶ。この一室の壁紙は、大阪市立東洋陶磁美術館の担当学芸員の宮川智美さんが撮ってきたヴェルサイユ宮殿のテキスタイルを参考に、デザインされたそうだ。

 

"左)《大皿(ルイ15世の「ブルー・セレストのセルヴィス」より)》(1699-1774)「セーヴル陶磁都市」所蔵、Photo(c)RMN-GP

左)《大皿(ルイ15世の「ブルー・セレストのセルヴィス」より)》(1699-1774)
右)《皿(「ロシア皇帝エカテリーナ2世のカメオとイニシャルのセルヴィス」より)》(1778年)
「セーヴル陶磁都市」所蔵、Photo(c)RMN-GP

 

「王のための磁器」には、《大皿(ルイ15世の「ブルー・セレストのセルヴィス」より)》(1699-1774)が展示されている。新しい王立製作所から納入された最初の食器セットで、白地に花果物、鳥をあしらった優美な作品だ。《皿(「ロシア皇帝エカテリーナ2世のカメオとイニシャルのセルヴィス」より)》(1778年)の食器セットの大部分はエルミタージュ美術館に保管されているという。このコーナーには《ルイ16世/王の胸像》と《マリー・アントワネット/王妃の胸像》(ともに1777年)も並ぶ。

 

左)《ルイ16世/王の胸像》(1777年) 右)《マリー・アントワネット/王妃の胸像》(1777年) 「セーヴル陶磁都市」所蔵、Photo(c)RMN-GP

左)《ルイ16世/王の胸像》(1777年)       右)《マリー・アントワネット/王妃の胸像》(1777年)
「セーヴル陶磁都市」所蔵、Photo(c)RMN-GP

 

第Ⅰ章「18世紀のセーヴル」では、当初手本としたドイツのマイセン磁器から脱し、宮廷芸術家たちが次々に新しい形と意匠を提案し、独自の磁器芸術として歩み始め、王妃たちを虜にした食器セット、壺、テーブルセンターピースなどが出品されている。《乳房のボウル(「ランブイエの酪農場のセルヴィス」より)》(ボウル2011年、原型1787-88年)は、ミルクを飲むための器だが、なんと乳房の形をしている。本物の肌のような色付けだ。マリー・アントワネットのために作られたのだが、ノウハウ継承のため再製作されたとか。

 

《乳房のボウル(「ランブイエの酪農場のセルヴィス」より)》(ボウル2011年版、原型1787-88年) 「セーヴル陶磁都市」所蔵、Photo(c)RMN-GP

《乳房のボウル(「ランブイエの酪農場のセルヴィス」より)》(ボウル2011年版、原型1787-88年)
「セーヴル陶磁都市」所蔵、Photo(c)RMN-GP

 

この章に同名の《カップと窪んだソーサー》(ともに1765年)4点が出ている。宮川学芸員によると、宮殿の壁紙やベッドリネンなどと統一し、カップのデザインがリボンや絣の柄になっているという。

 

"《カップと窪んだソーサー》(1765年)

《カップと窪んだソーサー》(1765年)    「セーヴル陶磁都市」所蔵、Photo(c)RMN-GP

 

第Ⅱ章「19世紀のセーヴル」は、1789年に起こったフランス革命の影響で、一時期ほとんど操業停止となったが、ナポレオンの台頭で息を吹き返す。デザート皿《将校デュプレシの戦闘と死》(1811年)は、ナポレオンがエジプト遠征から帰還したあとにセーヴルで製作された1枚だ。ペールの薄手のコーヒーセット《ノルマンディーの風景》(1855年)は、コーヒーとともに、描かれた風景を楽しめるような絵付けだ。

 

デザート皿《将校デュプレシの戦闘と死》(1811年) 「セーヴル陶磁都市」所蔵、Photo(c)RMN-GP

デザート皿《将校デュプレシの戦闘と死》(1811年) 「セーヴル陶磁都市」所蔵、Photo(c)RMN-GP

ペールの薄手のコーヒーセット《ノルマンディーの風景》(1855年) 「セーヴル陶磁都市」所蔵、Photo(c)RMN-GP

ペールの薄手のコーヒーセット《ノルマンディーの風景》(1855年) 「セーヴル陶磁都市」所蔵、Photo(c)RMN-GP

 

第Ⅲ章「20世紀のセーヴル」に入ると、万国博覧会で各国の作品が一堂に会し、技術と芸術性を競い合う。ジャポニスムが隆盛をみたのもこの頃だ。20世紀前半のセーヴル黄金期を築いたアール・ヌーヴォー様式とアール・デコ様式から選りすぐりの作品と、セーヴルが協力芸術家として外国人として初めて受け入れた彫刻家・沼田一雅(1873-1954)の作品も展示されている。

 

沼田の製作した《お菊さん》(1920年版、原型1904年)は、日本髪を結った着物姿の女性塑像。ピエール・ロティ(1850-1923)が1887年に書いた海軍将校のエキゾチックな愛を描いた「お菊さん」と同じタイトル。制作年と同じ年、ジョコモ・プッチーニが制作したオペラ「蝶々夫人」の元になっている。

 

沼田一雅《お菊さん》(1920年版、原型1904年) 「セーヴル陶磁都市」所蔵、Photo(c)RMN-GP

沼田一雅《お菊さん》(1920年版、原型1904年) 「セーヴル陶磁都市」所蔵、Photo(c)RMN-GP

 

《タバコ入れ》(1925-26年)は、パリで1925年に開催された現代装飾美術・産業美術国際博覧会のために著名な建築家と彫刻家によってデザインされた記念碑的な壺の縮小版の模索であり、アール・デコの時代を象徴する逸品だ。奇抜なデザインながら洗練された《ダンサー№1》(1925年)なども目を引く。

 

左)《タバコ入れ》(1925-26年)  右)《ダンサー№1》(1925年) 「セーヴル陶磁都市」所蔵、Photo(c)RMN-GP

左)《タバコ入れ》(1925-26年)  右)《ダンサー№1》(1925年)
「セーヴル陶磁都市」所蔵、Photo(c)RMN-GP

 

最後の第Ⅳ章は「現代のセーヴル 1960-2016」で、建築や彫刻・絵画・デザインなど各分野の第一線で活躍中の芸術家を招き、さらに魅力的な磁器を生み出す。ここに著名な草間彌生(1929-)の作品が登場する。《ゴールデン・スピリット》(2005年)は、頭が逆立ち、全身を金で覆われ、キュクロプスの一つ目を持つ交雑動物で、色の付いたビスキュイ(無釉白磁)彫刻作品だ。さらに友禅作家で人間国宝の森口邦彦(1941-)の《「実り」文様のカップとソーサー》(2016年)も注目作品だ。

 

草間彌生《ゴールデン・スピリット》(2005年) 「セーヴル陶磁都市」所蔵、Photo(c)RMN-GP

草間彌生《ゴールデン・スピリット》(2005年) 「セーヴル陶磁都市」所蔵、Photo(c)RMN-GP

森口邦彦《「実り」文様のカップとソーサー》(2016年)などの展示「セーヴル陶磁都市」所蔵、Photo(c)RMN-GP

森口邦彦《「実り」文様のカップとソーサー》(2016年)などの展示「セーヴル陶磁都市」所蔵

 

「皇帝の磁器」と言えば、中国の景徳鎮官窯を思い出すが、セーヴル磁器は現在もヨーロッパの世界的名窯として君臨しているのは驚きだ。そうした背景について、展覧会担当の宮川学芸員から次のようなメッセージを寄せていただいた。

 

私がセーヴルの魅力と思うのは、なによりその洗練された表現です。そのためには、一つはブーシェやファルコネに代表されるように、早くからフランスの宮廷に愛された芸術家を起用していることが挙げられます。それは19世紀にはルドゥーテ、20世紀にはリュールマン、そしてスーラージュやソットサスなど、時代により変化しつつも、いずれもがその時代の代表的なアーティストたちです。パリという、情報の行き交う都市のすぐそばで、確かな技術をもって、常に変化し続けながら製作を続けてきたことを作品が証明しています。

京都国立近代美術館「明治150年展 明治の日本画と工芸」
海外からも高評、美と技術誇る約190件

竹内栖鳳《羅馬古城図》(明治34年、京都国立近代美術館)

竹内栖鳳《羅馬古城図》(明治34年、京都国立近代美術館)

今年は明治元年から150年目を迎えます。明治維新後、政府主導のもと殖産興業や輸出振興政策が推し進められ、海外での日本美術への関心が高まった時期がある。京都では、技芸の継承と美術の発展を願って京都府画学校が設立され、多くの日本画家が工芸図案制作に携わることで、時代に即した図案の研究が進められた。「明治150年展」は、京都府画学校と日本画、そして超絶技巧がブームの明治の工芸を軸に約190件の大展観だ。

 

展覧会は、「京都府画学校と同時代の日本」と「明治の工芸」の二つのコーナーから構成されている。それぞれの内容と主な作品を、図録などを参考に紹介する。

 

京都府画学校は、都が東京に移り、人口が減って地場産業が衰退する危機感を覚えた京都で、技芸の継承と美術の発展を願って開校したのだった。高い芸術性を持った日本画家たちの描いた図案は輸出用の工芸品に用いられ、そのクオリティを更に高めるとともに、海外でも高い評価を受けた。当時、京都画壇でも活躍した竹内栖鳳、幸野楳嶺、都路華香、今尾経年、岸竹堂らの優美な作品が展示されている。

 

竹内栖鳳(1864-1942)は明治33年、パリ万博視察のため渡欧し、ヨーロッパ各地を巡遊します。西洋写実画法を吸収し、《羅馬古城図》(明治34年、京都国立近代美術館)もその成果だ。花鳥画譜で知られる幸野楳嶺(1844-95)の《春秋蛙合戦図》(文久4年/元治元年頃、京都国立近代美術館)や、都路華香(つじかきょう、1871-1931)の《雪中鷲図》(明治34年)など味わい深い作品が並んでいる。

 

幸野楳嶺《春秋蛙合戦図》(文久4年/元治元年頃、京都国立近代美術館)

幸野楳嶺《春秋蛙合戦図》(文久4年/元治元年頃、京都国立近代美術館)

 

「明治の工芸」には、目を見張る。明治政府は外貨獲得のため輸出振興に力を注ぎ、『温知図録』(東京国立博物館)を作成し新図案をもとに、全国の作家たちに革新的な制作を奨励したのだった。初代川本桝吉(1831-1907)の《釉下彩切子形花瓶》(明治14年、瀬戸蔵ミュージアム)など好例だ。京都では錦光山宗兵衛や帯山与兵衛らが、金彩や色絵を大胆に施した輸出用陶器の生産に舵を切った。

 

左)『温知図録』第4期・陶磁器8(東京国立博物館) 右)初代川本桝吉《釉下彩切子形花瓶》(明治14年瀬戸蔵ミュージアム)

左)『温知図録』第4期・陶磁器8(東京国立博物館)
右)初代川本桝吉《釉下彩切子形花瓶》(明治14年瀬戸蔵ミュージアム)

 

19世紀後半になると、万国博覧会において日本の文物が紹介され高評を得て、文化国家としての認められるともに、輸出増につながった。とりわけ鮮やかな色彩と細密かつ正確無比な絵付けや、わずか数ミリの高低差を付けた透かし彫りによる文様などをあしらった超絶技巧を生かした陶磁器は特に高い人気を得た。

 

ドイツ出身のお雇い外国人ゴットフリート・ワグネル(1831-92)は、釉下に日本古来の絵画描法を施した低火度焼成陶器である「旭焼」を生み出し、日本の窯業技術の改良に大きく貢献しました。《釉下彩鳥樹図陶板》(明治23-29年、京都国立博物館)は、日本画の繊細さを存分に生かした透明感あふれる作品だ。

 

ゴットフリート・ワグネル《釉下彩鳥樹図陶板》(明治23-29年、京都国立博物館)

ゴットフリート・ワグネル《釉下彩鳥樹図陶板》(明治23-29年、京都国立博物館)

 

日本を代表する七宝家の一人で、京都を中心に活躍した並河靖之(1845-1927)の《桜蝶図平皿》(明治時代、京都国立近代美術館)は、花や蝶が華やかに描かれています。並河工場の下図「桜蝶文皿」(明治時代、並河靖之七宝記念館)も出品されていて興味深く鑑賞できた。トーマス・B・ブローの《花蝶図輪花皿》(明治~大正時代、京都国立近代美術館)も逸品だ。

 

 

並河靖之《桜蝶図平皿》(明治時代、京都国立近代美術館)

並河靖之《桜蝶図平皿》(明治時代、京都国立近代美術館)

トーマス・B・ブローの《花蝶図輪花皿》(明治~大正時代、京都国立近代美術館)

トーマス・B・ブローの《花蝶図輪花皿》(明治~大正時代、京都国立近代美術館)

 

超絶技巧の作品では、安藤緑山(1885-1959)の《仏手柑牙彫置物》(大正-昭和時代、京都国立近代美術館)、は鮮やかな黄色の果実をリアルに再現した立体作品です。このほか上良寛(初代)の《高浮彫群猿花瓶》(明治時代、愛知・横山美術館)や、武蔵屋大関の《金蒔絵芝山花鳥図飾器(明治時代、京都国立近代美術館)などが目を引く。

 

安藤緑山《仏手柑牙彫置物》(大正-昭和時代、京都国立近代美術館)

安藤緑山《仏手柑牙彫置物》(大正-昭和時代、京都国立近代美術館)

武蔵屋大関《金蒔絵芝山花鳥図飾器(明治時代、京都国立近代美術館)

武蔵屋大関《金蒔絵芝山花鳥図飾器(明治時代、京都国立近代美術館)

 

パリ万博会場をイメージしたコーナーが設けられている。ここには二代加藤杢左衛門(1832-1900)の《染付花唐草文大燈籠》(明治時代前期-中期、個人蔵[瀬戸蔵ミュージアム寄託])など多数出揃い圧巻だ。さらに千總、川島織物、象彦、京都髙島屋などの美と技術を誇る工芸品も展示されている。

 

二代加藤杢左衛門《染付花唐草文大燈籠》(明治時代前期-中期、個人蔵[瀬戸蔵ミュージアム寄託] )

二代加藤杢左衛門《染付花唐草文大燈籠》(明治時代前期-中期、個人蔵[瀬戸蔵ミュージアム寄託] )

《染付花唐草文大燈籠》などパリ万博会場をイメージした展示コーナー

《染付花唐草文大燈籠》などパリ万博会場をイメージした展示コーナー