無限に広がる宇宙に存在する数えきれない星の中でも、色彩豊かで、様々な光や音が響き合う、とびっきりユニークな星、地球に、一人の人間としてボクは生まれた。これはどう考えても、奇跡としか言いようがない。

 

風や水など自然の力で動く彫刻作品で世界的に知られる新宮 晋が美術館で開催するこれまでで最大級の個展「新宮 晋の宇宙船」の図録に寄せた文章の書き出しだ。1960年代から地球の大地を舞台に大規模な野外彫刻を発表してきた新宮が、美術館という屋内空間をひとつの「宇宙船」と捉え、そのために生み出された新作と近作をまじえ18点を兵庫県立美術館で5月7日まで展開中だ。この機会に、芸術家・新宮の過去と現在、その作品の魅力と世界観などを紹介する。

 

世界6地域の大自然の中で野外彫刻展

「新宮晋の宇宙船」の開会式で挨拶する新宮晋

「新宮晋の宇宙船」の開会式で挨拶する新宮晋

新宮 晋(すすむ)は1937年に大阪で生まれ、今年80歳になる。1960年に東京芸術大学絵画科を卒業後、イタリア政府奨学生としてローマ国立美術学校で絵画を学ぶ。1966年にミラノ、ブルー画廊で初めて立体作品を発表する、その後、内外の彫刻展・美術展に出品し大賞などを受賞するとともに、アトリエのある三田市を中心に各地で個展を重ねる。関西国際空港の国際線出発ロビーやJR神戸駅前など世界各国の公共空間に設置された作品は160点以上に上る。

 

 

とりわけ1987年に「ウインドサーカス」と称してヨーロッパ、アメリカの大都市で巡回野外彫刻展を、2000年から2001年にかけては、三田を皮切りにニュージランドやモンゴルなど世界6つの地域の大自然の中で、風で動く野外彫刻展「ウインド・キャラバン」を開催し、世界の注目を集めた。

 

「ウインドキャラバン」のモロッコ会場。サハラ砂漠につながる岩山の大自然に置かれた新宮作品(2001年)

「ウインドキャラバン」のモロッコ会場。サハラ砂漠につながる岩山の大自然に置かれた新宮作品(2001年)

 

こうした活動が2011年10月、NHKの「新日曜美術館」で、「風の彫刻家 新たな挑戦~新宮晋~」のタイトルで放映された。この番組によって、風や水など自然のエネルギーだけで動く彫刻を作り続け、芸術活動を通じて自然と人間の共存のあり方を探る新宮の創造の軌跡を知り、その思想と芸術に、心動かされた。

 

私が新宮に初めて会ったのは、2013年10月、大阪の山木美術と、隣接のT’s galleryで開かれた合同企画「新宮 晋展―小さな惑星―」の会場だった。この年には、三田の空地で 「田んぼのアトリエ 新宮 晋/風の彫刻展」も開催され、世界的なアーティストの新宮はにわかに身近なアーティストとなった。

 

《Wishes on the Wind》(2013年、T's gallery/山木美術「新宮晋―小さな惑星―」展)

《Wishes on the Wind》(2013年、T’s gallery/山木美術「新宮晋―小さな惑星―」展)

 

その後2014年には、神戸市立小磯記念美術館での特別展「新宮晋:地球の遊び方」や、兵庫県立有馬富士公園にオープンした「新宮晋 風のミュージアム」にも出向き、斬新な作品を鑑賞し、作家とも親しく懇談の機会が与えられた。翌2015年には風のミュージアムで開催の「風の能」や「風のジャズ」などの野外イベントの案内をいただいたが、こちらは参加できなかった。

 

空間に浮かぶ数々の作品の形は常に変化

さて今回の「新宮 晋の宇宙船」では、美術館に入る前の北入り口に高さ3.6メートルの《風の門》(2003年)が置かれている。屋外の自然の風を受け回転する作品で、来場者を手招きするように迎える。3階の展示室に入る前の吹き抜けの空間にも作品がある。《星の海》(2016年)は、黄色い四角の薄いポリエステルの布を組み合わせた作品で、夜空に浮かぶ無数の星のように、煌き揺らぐ。

 

 

 

《星の海》(2016年)の展示プラン

《星の海》(2016年)の展示プラン

《星の海》(2016年)

《星の海》(2016年)

 

会場に入ると、そこは従来型の壁面展示ではなく、空間に浮かぶ作品を見ると言うより、体感しながら進むことになる。最初の展示室には、無限に姿を変える雲の動きをイメージした《雲の日記》(2016年)をはじめ、《空のこだま》(2016年)、《小さな宇宙》(2014年)、《星空》(2013年)《風》(2016年)などの作品が、いずれも同じ形に留まることなく軽やかに動く。

 

《雲の日記》(2016年)

《雲の日記》(2016年)

《星空》(2013年)

《星空》(2013年)

《風》

《風》(2016年)

 

次の展示室から水で動く作品の《雨の光線》(2016年)、《雨に乾杯Ⅱ》(1989年)、《小さな惑星》(2016年)が展示されている。新宮の意図は「雨は空からのメッセージ。地上にさまざまな命を生み、育む」といった構想だ。展示室では、循環する水を受けたいくつかの器が重みで回転し、それに従って、作品全体が複雑な形状に変わる。天井からは照明が作品の姿を床に映し出し、美しい影絵を描く。

 

《雨の光線》(2016年)の展示プラン

《雨の光線》(2016年)の展示プラン

《小さな惑星》(2016年) 右)拡大写真

《小さな惑星》(2016年)   右)拡大写真

 

大自然をイメージさせる《雲の階段》(2017年)を眺めた後の展示室は一転、カラフルな世界が広がる。《オーロラ》(2016年)と《オーロラⅡ》(2017年)が、風によってたなびく。布面の位置が変化し、二度と同じ布の組み合わせを見ることができない仕掛けだ。

 

《雲の階段》(2016年)

《雲の階段》(2016年)

《オーロラⅡ》(2017年) 14 《オーロラ》作品の前で新宮晋

《オーロラⅡ》(2017年)  右)作品の前で新宮晋

 

最後の展示室には、《時の流れ》(2013年)、《月の舟》(2009年)、《小さな花》(2013年)が、それぞれユニークな動きを展開する。さらに会場内では、世界6ヵ国で開催した風で動く野外彫刻展「ウインドキャラバン」のビデオや、新宮が構想する自然エネルギーで自立する村「ブリージング・アース」(呼吸する大地)の版画や模型写真なども展示されている。

 

手前から《時の流れ》(2013年)、《月の舟》(2009年)、《小さな花》(2013)の展示

手前から《時の流れ》(2013年)、《月の舟》(2009年)、《小さな花》(2013)の展示

《呼吸する大地》(2010年)のイメージ

《呼吸する大地》(2010年)のイメージ

 

会場で見かけた新宮は、「この展覧会のために創った作品が多くあります。それは宇宙船の旅を楽しんでもらいたからです。一つ一つの作品を見ていただくと同時に、作品をつなぐ物語を意識して、展示構成を考えました」と話していた。

 

この展覧会を見た直後に、大阪市内の街角にある新宮作品を見かけた。その一つは先に触れた「新宮晋展―小さな惑星―」後に、設置された《地平線》(2011年)だ。淀屋橋の戸田ビルの壁面に取り付けられ、自然の風に動き続けている。もう一つが南扇町の一角に3月末オープンした岩井美術の店頭と店内に《白い風》(2013年)と《小さな翼》(2011年)だ。微風でも動く彫刻作品は、動かない彫刻作品の概念を変える。

 

岩井美術の店頭に置かれた《白い風》(2013年)

岩井美術の店頭に置かれた《白い風》(2013年)

 

自然と人間の共存のあり方を探る表現

水や風といった自然の恵みや、雲や星空といった宇宙の美しさを享受してきた私たちは、ともすれば自然のありがたさを忘れがちだ。東日本大震災は自然の脅威を見せ付けられたが、一方で自然や地球についての尊厳を思い起こさせた。まさに新宮作品は、率直に、じつに謙虚に、目に見えない自然のちからを、私たちの前に作品として提示する。風や水で動く彫刻がそれだ。

 

2013年11月には、三田市の兵庫県立有馬富士公園に《里山風車》が設置された。風車は高さ約6・9メートルで、六角形の小屋の上に、船の帆などに使われる厚手の布を張った羽根の風車を備えている。4枚の羽根が風を受けて回ると発電する仕組みになっていて、夜間は小屋に取り付けた照明が風車を照らし出す。

 

三田市の兵庫県立有馬富士公園に設置された《里山風車》(2013年)

三田市の兵庫県立有馬富士公園に設置された《里山風車》(2013年)

 

福島での原発事故をきっかけに風力発電所など自然エネルギーが見直されている中、風や水で動く新宮の芸術作品は、風が吹くと、実際に発電する仕組みだ。里山に生まれた風車は新春の風で回り続けている。披露の日、新宮は「アート作品ですが、発電も出来ます。将来を担う子どもたちに自然のすばらしさや大切さを知ってもらいたい」と抱負を語っていた。

 

《里山風車》は、兵庫県阪神北県民局が三田、宝塚、川西、伊丹の4市と猪名川町に残る北摂里山地域を保全して活性化を図ろうと、自然公園を展示物に見立てた「北摂里山博物館(地域まるごとミュージアム)」構想の一環で、「里山風車」はそのシンボルでもある。この公園には、新宮の造形作品12点が常設され、2014年に野外美術館「新宮 晋 風のミュージアム」としてオープンしている。

 

これより先の2011年、三田市藍本のアトリエ前で、野外彫刻展「田んぼのアトリエ」を開催している。田植えから稲刈りまでの4ヵ月間、季節の変化の中で子どもたちと一緒に、自然について、さらに地球の未来や生き方を学ぼうというプロジェクトだった。さらにアトリエや兵庫県美術館、「風のミュージアム」では、「元気のぼり」のワークショップなどを実施している。

 

子ども向けワークショップの「元気のぼり」

子ども向けワークショップの「元気のぼり」

 

海外での展示も注目される。2012年秋にフランスで「光のシンフォニエッタ」プロジェクトを開催している。チュイルリー公園の池に設置した高さ2.85メートルの彫刻10基が、水面に円形や三角の帆が風を受けて回り、パリっ子の目を楽しませ、お年寄りたちにもくつろぎを与えていたという。

 

「光のシンフォ二エッタ」の展示(2012年、パリのチュイルリー公園)

「光のシンフォ二エッタ」の展示(2012年、パリのチュイルリー公園)

 

洋画家として出発した新宮は、やがて「なぜ四角いキャンパスの中に形を閉じ込めなくてはならないのか」と疑問を抱き、彫刻家となり、やがて自然や宇宙をテーマにした大規模な造形作品を手がける。そのため美術館内での個展が数少ないのも、あまり魅力を感じなかったのかもしれない。

 

新宮は『いちご』(1975年、文化出版局)など絵本も数多く著わし、「風の能」や「風のジャズ」などステージの企画や演出など芸術活動は幅広い。2009年から取り組む「ブリージング・アース」は自然エネルギーで自立する新たな共同体の創生の夢だ。一芸術家の枠を超えた挑戦だ。

 

今回の図録の冒頭に哲学者で日本文化研究者の梅原猛さんは、「新宮晋は、岡本太郎並みの誰にも真似のできない独自の芸術を創造する芸術家であると私は思う。(中略)新宮芸術には、自然のいたるところに神があり仏があるという思想が込められている。彼の芸術は、風に揺れる自然の一木一草のなかに神仏がいることを知らせてくれるのである」と高く評価している。

 

最後に再び、新宮の考え方を紹介する。図録に次のような言葉で締めくくっている。

 

ボクは、アートの力を信じている。アートには、政治にも経済にもない、心から心へ直接伝わる特別な力があると思う。ボクは、この星に生まれてきた幸せを、1人でも多くの人に伝えるために、ものを創る