「春画展」会場の京都・細見美術館

「春画展」会場の京都・細見美術館

かの大英博物館で反響を呼び、東京の永青文庫で21万人の動員があった初の本格的な「SHUNGA 春画展」は京都に上陸し、細見美術館で4月10日まで開催中だ。デンマークのコレクターをはじめ、日本の美術館・研究所や個人が秘蔵する鈴木春信、鳥居清長、喜多川歌麿、葛飾北斎といった浮世絵師による「春画の名品」がそろって展示されている。大博物館から里帰りしていた作品は出品されないが、その代わり京都限定作品も13点ある。そもそも春画は平安中期の洛中洛外で肉筆による絵巻物の中に描かれていて、江戸の浮世絵師による版画より早い。いわば春画のルーツ京都ならではの魅力に迫り、狩野派や土佐派・住吉派と春画との関係も探ろうという趣旨だ。ただし性の営みを赤裸々に描いていることもあり、18歳未満は入場できない。

「本家」開催に130件余、オリジナルの魅力

「春画展」は2013年秋から14年初めにかけてロンドンの大英博物館で「春画―日本美術における性とたのしみ」の特別展として開催された。約9万人が訪れ、その6割が女性であったことから話題になった。その主な出品作は、芸術新潮の2013年12月号に掲載されていた。大英博物館「春画」展がスゴイ――。こんなタイトルの特集記事で、興味を引いた。画像も大きく扱われた内容もさることながら、「こうしたテーマの展覧会がよくぞ実現したものだ」と、驚いたのだった。

 

ところが大英で成功した「春画展」を「本家」の日本で開催するとなると、会場探しが困難を極めた。その間の事情を春画展日本開催実行委員会の淺木正勝代表は「4年以上にわたる研究の成果を大英に続き日本でも、ということで、公立美術館に打診をしてきました。学芸の方は趣旨に賛同していただき前向きでしたが、各館の上層部はどこも慎重でした。半年ほど検討していただいたところもありましたが、20数ヵ所から断られました。その理由は青少年に与える影響が大きいなどです」と明かす。

 

そんな状況下、風穴を開けたのが永青文庫だった。永青文庫は、旧熊本藩主細川家伝来の美術品、歴史資料や、16代当主細川譲率の収集品などを収蔵していて、理事長は18代当主の細川護煕・元内閣総理だ。細川さんは、「規模も小さく、至らないところの多い施設ですが、春画展日本開催への皆様の情熱と意義に応えて、及ばずながら、ご協力したいと考えた次第です」と、主催者挨拶で記している。また芸術新潮のインタビュー記事で「今回の展覧会が起爆剤になって、扉を開くきっかけになれば、と願います」と話している。

 

それに関西で応えたのが細見美術館だ。日本の古美術の収蔵で定評があり、琳派400年の昨年は、所蔵する俵屋宗達や酒井抱一ら琳派の名品が注目を集めた。今回の「春画展」は、春画展日本開催実行委員会からの要請もあり、館蔵品展を延期し急遽決めた。細見良行館長は「大英展も見ており、東京の次は手を挙げようと思った。文化首都の京都で春画の名画に出会ってほしい」と積極的だった。

 

京都展では前期(~3月6日)後期(8日~)合わせて約13件余が展示される。このうち、京都の西川祐信(すけのぶ)や大坂の月岡雪鼎(せっけい)、さらに九州の大名家に伝わる作品約13点を初めて展示。同館では、「大名から庶民にまで広く愛された肉筆と浮世絵が一堂に揃うまたとないこの機会に、ぜひ春画の魅力をご堪能ください」と呼びかけている。

肉筆や版画、豆本などの名品が一堂に

春画とは、江戸時代に登場し発展した絵画だ。主に異性間や同性間の性描写を描いた版画の一種で、「笑い絵」などとも呼ばれたユーモラスで芸術性の高い肉筆画や浮世絵版画の総称だ。人間の自然な営みである性を主題にする絵画は古今東西にわたって存在するものの、浮世絵春画は世界でも質量ともに群を抜き、早くから海外からも注目を集めていた。

 

とりわけ19世紀末のジャポニスム時代以降、特に欧米で高い評価を得てきた。ところが日本では浮世絵展などで一部の作品が出品されているが、春画をテーマにした展覧会はこれまで一度も開催されたことがなかった。このため春画を題材にした出版物など数多く出回っているのに、オリジナル作品は、まとまって鑑賞出来ない、という奇妙な状況にあったわけだ。

 

大英展から1年有余経て「SHUNGA 春画展」が東京に続き京都でも開催の運びとなったのだ。細見美術館の展示構成は、おおむね永青文庫と同じような構成だが、プロローグとして「京都と春画」の章を設けている。日本最古の春画とされる「小柴草子」の模写本として、谷文晁(ぶんちょう)の「小柴垣草子 模本」(1828年)や、京の絵師西川祐信の長男、西川祐尹(すけただ)の「春画帖」(18世紀後期)なども京都だけの展示だ。

 

02--小柴垣草紙-摸本

 

第1章が「肉筆の名品」。当初は版画のような印刷技術はなく、人の手によって線と色が描き出された。当然ながら春画は値が張り、大名家の大奥や富裕な商人らだけが享受してきたと思われる。

 

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05-すゑつむはな

 

ここでは西川祐信の「春宵秘戯図巻」(1716~36)はじめ円山応挙の「すゑつむはな」(18世紀、国際日本文化研究センター蔵)、後期には鳥文斎栄之の「四季競艶図」(1794~1801年、ミカエル・フォーニッツコレクション蔵)や「源氏物語春画巻」(18~19世紀、林原美術館蔵)、蹄斎北馬「相愛の図屏風」 (平戸千里ヶ浜温泉 ホテル蘭風蔵)などが見どころ。永青文庫が所蔵する狩野派絵師の「欠題十二ヶ月」の名品も陳列されている。

 

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08-源氏物語春画巻

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市河米庵「楽字屏風」(平戸千里ヶ浜温泉ホテル蘭風蔵)を見る観客

市河米庵「楽字屏風」(平戸千里ヶ浜温泉ホテル蘭風蔵)を見る観客

 

第2章「版画の傑作」では、名だたる浮世絵師が筆をふるった版画の作品が並ぶ。版画制作によって春画も広く普及した。著名な浮世絵師のほとんどが、春画を制作している。喜多川歌麿の「歌まくら」(1789年、浦上満氏蔵)や葛飾北斎の「喜能会之故真通」(1814年、前期=浦上満氏蔵、後期=国際日本文化研究センター蔵)、歌川国貞「花鳥餘情吾妻源氏」(1837年頃、国際日本文化研究センター蔵)のほか、鈴木春信や鳥居清長、菱川師宣らの作品を鑑賞することが出来る。

 

12-歌まくら

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17-煙管
18-袖の巻

 

第3章「豆判の世界」は、縦9センチ×幅13センチほどの版型の、現代風に言えばポケットサイズの小さな「豆判」の春画である。値段もサイズもお手頃なので、かなりの数が制作されたと思われる。とりわけ江戸時代の太陰太陽暦では、30日の「大の月」と29日の「小の月」の絵暦を錦絵で作ることが盛んだった。値段もサイズもお手頃なので、かなりの数が制作されたと思われる。とりわけ江戸時代の太陰太陽暦では、30日の「大の月」と29日の「小の月」の絵暦を錦絵で作ることが盛んだった。数々の絵暦が陳列されているが、後期に「豆本絵暦 忠臣蔵大小暦」(1822年)も出品される。

性の営みをタブー視の風潮から脱しよう

20-四季図巻私が会場で注目した一品は月岡雪鼎の「四季画巻」(1772~81年、ミカエル・フォーニッツコレクション)だ。雪鼎と言えば、やはり芸術新潮の2015年1月号に「月岡雪鼎の絢爛エロス」が特集されていている。肉筆春画が部分拡大されて掲載されているのには抵抗もあるが、艶姿の巧みさに、さすが春画の名手と頷いた。その後、昨年8月に横浜美術館で鑑賞した蔡國強(ツァイ・グオチャン)の「帰去来」展に出品されていた「人生四季」は、雪鼎の作品「四季画巻」から着想を得ていて印象的だった。

 

ところで絵師不詳の「地獄草紙絵巻」(1796年、国際日本文化研究センター蔵)のキャプションには、「仲のよい夫婦が死後、閻魔大王の裁きで房事盛んの淫乱の罪で罰せられるが、性的イメージにあふれた六道をめぐって最後、阿弥陀の来迎で極楽浄土にそろって成仏するのを描く」とあった。そんな粋な解説がふさわしい春画作品を、気楽に眺めてみるのも一興だ。

 

19-報道関係者

版画作品などの説明を受ける報道関係者

東京と京都で鑑賞した私の感想としては、「百聞は一見に如かず」で、浮世絵師の表現力に圧倒される。天才絵師の歌麿や北斎が描いたものもある。「いやらしい」と「エロい」とかより、「わいせつ感をよせつけぬ絵画性」というか「とにかく美しい」のだ。若いカップルが数多く来場していたのも不思議と納得した。

 

世の中では、ヌード写真集や、風俗雑誌、エロビデオが氾濫している。性の営みは人間の普遍的な行為で、古今東西様々な絵画や彫刻に表現されている。性器に関しても、特にインドでは男性器をかたどった彫像は、シヴァ神の持つエネルギーの象徴と考えられ人々に崇拝されている。日本でも神社に祀られ、子孫繁栄や五穀の豊作を祈る対象ともなっている。性の問題をタブー視する風潮から脱する「春画展」に期待したい。